2012/01/16

文化駅ソウル284 / ソ・ヒョンソク『ヘテロクロニー』

昨日は、文化駅ソウル284で行われたソ・ヒョンソク氏の『ヘテロクロニー』というサイトスペシフィックパフォーマンスを見てきました。

まず、会場の「文化駅ソウル284」について。
ソウル駅のすぐ横にある、旧ソウル駅。


この使われなくなった駅舎を復元工事の後、アートスペースとして復活させたのが「文化駅ソウル284」です。
この名前は、文化・アート交流の中心を担う文化ステーション+史跡第284号という意味で公募で決まったそうで、2011年8月9日にプレオープンしました。

正式オープンは今年の3月なのですが、それまでの間「カウントダウン」というイベントが行われています。

昨日はその中で上演されるソ・ヒョンソク演出の『ヘテロクロニー』を見に行きました。
ソ・ヒョンソクという名前、もしかしたら聞いたことがある方もいらっしゃるかも?
そう、フェスティバル/トーキョーの批評家inレンジデンスの参加者のおひとりです。

ソ・ヒョンソク氏は、都市のある場所を使って、その場所の歴史や成り立ち、エピソードなどを織り交ぜたサイトスペシフィックな作品を作るアーティストです。
ちなみに、ソ・ヒョンソク氏の作品を見るのは、今回見た『ヘテロクロニー』で私にとって2作品目となります。

では、『ヘテロクロニー』の内容について。
会場はこの「文化駅ソウル284」なのですが、観客は1名づつ20分おきに出発します。
観客1人につき、俳優(というかガイド?)が1名つくという超贅沢な作品。
ちなみに、ソ・ヒョンソクさんの作品は基本的には観客は1名で体験させるシステムであることが多いようです。(前回見た作品もそうでした。)

さて、『ヘテロクロニー』に戻ります。

観客である私は、俳優さんと雑談をしながら、ある一室に連れて行かれます。
その部屋に入ると、ハリーポッターのようなマントを装着させられ、耳にヘッドホンを入れられます。

このヘッドホン、音楽が聞こえるわけではなく、実際に自分が耳で聞いている音と同じ音が、
自分をアテンドしてくれている俳優さんの着けているマイクで拾われて聞こえてきます。

なので、実際に自分の耳で聞くのと同じ音なのに、
イヤホンを通しているのでなんだか違和感があります。
しかも自分が話した声もマイクで拾われて耳に入るので
話しながら自分の声が聞こえてくる、二重に耳に入ってくる感じの気持ち悪さ。

俳優さんとそのまま会話をつづけながら歩いていくと、窓の前につきます。
窓からは遠く伸びる線路とそこを走る電車が見えます。
そこで「夢」に関するやりとりがあるのですが、その中で、
笑ってくださいとか、手をたたいてくださいとか、俳優に指示されて
観客はその指示通り演じることになります。

そして俳優さんにいろいろな場所に連れて行かれます。
外に出て、歩道橋のようなところ(両端にはホームレスが寝ている)ところでは
俳優が私に尋ねます。
「人生は良く旅に例えられますが、そう思いますか?」

その後も俳優さんと二人っきりでいろいろなところに連れていかれるのですが
その途中から、イヤホンで聞こえてくる俳優さんの声、
それに答える自分の声が遅く聞こえてきたり、
水の中にいるような、音がこもってしまってよく聞こえなくなったりして、
まるで夢の中にいるような、現実感から遠い世界のような感覚。

そしてある地点まで行くと、
これから先は決して振り返ったり、後戻りしたり、声を出してはいけません。
ただ私を信じてついてきてください、私を信じますか?と質問され
信じます、と答えるとマントを頭からすっぽり被されて
何も見えなくなります。

何も見えない状態のまま、連れまわされ続ける私。

ある地点につくとマントをはがされ、新しい景色が見えます。
まず最初はKTX(韓国版の新幹線)が止まっているところをホームの反対側から見る、
再び真っ暗。
次にマントをはがされると、自分の隣にKTXが止まっています。
再び真っ暗。
次にマントをはがされると、駅員室の入口(?)のようなところ。

ここでゴーグルをはめられます。
ゴーグルは黄色で、見るものがすべて黄色に見えます。

再び真っ暗な世界。

次にマントをはがされると、
イヤホンからはノスタルジックな音楽が間延びしたテンポで流れてきます。
そこはKTXのホーム。
実際に、車両を探している親子連れや、勤務が終わったのか
仲良く話しながら駅員室に戻っていく制服を着た人たち、
そんな人たちとすれ違いながら駅のホームを長い間歩かされます。
これは俳優さんなのだろうか、一般人なのだろうか、そんなことを考えながら
まるで、映画の回想シーンのような、
黄色い世界のなかを、歩く私。
そんな中、イヤホンから「ゆうこさん…ゆうこさん」と私を呼ぶ声が聞こえます。

そのまま歩き続けていると、これまで自分を隣で誘導してくれていた俳優さんが、
自分を置いて先に歩いて行ってしまうではありませんか。
「え、え、置いて行かないで!」と思った瞬間またマントを後ろからかぶされ
真っ暗に。

次にマントをはがされると、そこはKTXの入口。
新幹線もそうでしょうか、入口を入ってすぐに鏡があるんです。
その鏡に映る自分としばらく対峙させられます(といっても、ゴーグルした私)。

その後、また真っ暗になった後
次は、ホームに向かう、込み合う人ごみの中を歩かされます。
誘導の俳優さんは私の後ろ。
でも決して振り返ってはいけないので、どこに向かえばいいのか、
不安になりながら歩いていると、
少し先に、私と同じマントをかぶった人が、私に向ってライトを当てているのが見えます。
あっ、あの人、と思った瞬間また真っ暗に。

そして最後にマントとゴーグルをはずされると、
目の前のベンチにおじいさん、おばあさんがたくさん座っていて
全員が私をじーっと見ています。
誘導してくれていた俳優さんはいません。
全員が私を無言で見続けています。

あれ、この人たちなんで私をそんなに見ているんだろう、
俳優さん、どこいっちゃったんだろう、
放置プレイの中めちゃめちゃ心細くなったところで俳優さんが「おわりです。」と。

種明かしをすると、
私は現在使われている方のソウル駅待合室の備え付けのテレビモニターの前に立たされていたのでした。
だからおじいさん、おばあさんからしたら、いきなりさっきまで見ていた
テレビモニターの前に、人が連れてこられてマントをはがされ、
その人が自分たちを超不思議そうな顔で見ている。
そりゃ、不思議な気持ちで見返すよね・・・。

以上が今回の『ヘテロクロニー』の内容でした。
旧ソウル駅、使われなくなった駅、夢、旅、人生、人との交差、視線、
たくさんのことを考えさせられる作品でした。
前に私がみた作品も本当に素晴らしかったので、いつかソ・ヒョンソクさんには
日本でレジデンスして作品をつくっていただきたい!

ちなみに、パフォーマンスが終わった後、
私をアテンドしてくれた俳優さんと少しお話をしたら、
「F/Tサロン」で司会をしていた私をUstreamで観ていてくれたらしく
知ってますよ、と言ってくれたのが超嬉しかったです。
あのトークを韓国から見てくれた人がいたのだと。

どんなつながりがあるか、分からないものですね。