2013/03/05

あの売れっ子劇団はどのように海外進出を果たしたか?韓国KAMS作成:公演芸術海外進出戦略地図〈Map & Case〉

KAMS(Korea Arts Management Service)が作成した公演芸術海外進出戦略地図〈Map & Case〉というものがある。
KAMSが運営するtheAproというサイト上にアップされていて誰でも見られるものなのだが(国内向けの情報なので韓国語のみ)、非常によくできているので少し紹介したい。

まず、KAMSについては以前このブログで「センターステージ・コリア」の公募を紹介した際にちらっと書いたのだが、韓国文化体育観光部傘下の舞台芸術を中心とした芸術経営支援センターで、アートマネージメントに関わる組織・個人のための研究·調査、コンサルティング、アカデミー、知識や情報の提供を通じて、芸術の産業機能を強化することを目的とした組織である。

「芸術の産業機能を強化」とあるように、単なる文化交流にとどまらず、そこからいかにお金を生み出すか(海外に作品を売り込む、芸術・文化的な国家イメージを向上させ海外からの訪問客を増やす、など)を目的としているので、日本にこれに近い組織は無いと思う。

舞台芸術の国際交流のためのバイリンガルウェブサイト「theApro」の運営や、毎年秋に開催されるソウル舞台芸術見本市(PAMS)もこのKAMSが主催している。

さて、〈Map & Case〉の話に戻ろう。
この地図が誰のために何の目的をもって作られたものなのかというと、海外で作品を上演したい韓国国内の劇団・カンパニーのために、既に海外進出と交流を実行してきた団体の進出事例をまとめることで、より効果的、合理的に進出戦略を立て、試行錯誤を最小化するためのものである。


演劇4団体、舞踊3団体、音楽2団体、ダウォン1団体(個人)の計10団体の海外進出の過程がまとめられている。
ダウォン芸術の分野では、F/T公募プログラムに『油圧ヴァイブレーター』で参加したジョン・グムヒョン(今や売れっ子!)の海外進出過程がまとめられている。

ジョン・グムヒョンの海外進出過程。地下鉄の路線図を模しており、上の路線図をクリックすると下の図が世界地図に変わり、どのフェスティバルで作品上演をしたかが分かる仕組みになっている。(C)www.theApro.kr
ジョン・グムヒョンの海外進出過程はこちら

各団体ごとに、どのようにして海外進出が始まったか、なぜこの作品(団体)が海外に呼ばれるのか(強み)、どのようにしてネットワークを築いているか、国内での公演とは何が違うか、今後のビジョンなどがまとめられている。

こうやって、各団体内で蓄積されている経験や知識をあるところに集約し、それを見た人全員が共有できるシステムは需要だと思う。

また、地域ごとのポイントもまとめられていた。
(以下、theAproより抜粋)

 1)欧州
欧州は実際の進出事例が一番多い地域。公共の支援システムが最も優れており、地域ごとに公共劇場と様々なフェスティバルが豊富で、需要が多い市場である。また、公演関係者間のネットワークがうまく形成されており、ツアーを組むことが​​比較的容易であり、交流が一度成立すると継続的な進出がしやすい環境である。作品のプレゼンテーションだけでなく、ワークショップや共同製作など芸術家の交流のためのプログラムや機会が相対的に多い。

2)アジア
アジアは交流の量が急速に増えている地域で、進出事例の数が欧州に次いだ。距離が近く、比較的低コストで海外進出を推進することができ、経済力の成長とあわせ購買力が上昇している。また、作品の背景など文化的理解が高く、韓国の作品に対する受容力も高い。一方、欧州に比べて域内ネットワーク体系が貧弱で、国家間の移動が容易ではない。また、国別経済力のばらつきが大きく、国別進出事例の数が異なっており、一つの圏域より個別の国家として断続的な公演への進出が多かった。日本との交流が大きな比重を占めており、シンガポール、台湾などの国々への進出が増加してきた。

 3)オセアニア
オーストラリアとニュージーランドがあるオセアニアでは公演産業を国家の主要産業と設定しており、公演に対する功績、産業システムがよく固められている地域である。また、地理的に近いアジア地域との芸術交流の比重を高めてきており、アジア地域の芸術家や団体との共同創作、共同製作、共同ツアー組織などのニーズが相対的に強い。フェスティバルおよび劇場の協議体の構成がうまくいっており、ツアー型公演の事例が増えている。

4)北米および中南米
米国は公演進出事例が比較的活発ではなかった。何より、公共のサポートシステムがないことが障害要素としてあり、招聘時に公共の支援ではなく、ボックスオフィスの収益や企業のスポンサーに依存するため、招聘作品の選定において保守的という評価だ。また、国際規模のフェスティバルや、企画および製作の劇場数が欧州に比べて少なく、作品の流通においてプロモーターやブッキングエージェントの役割が相対的に大きい。
中南米は経済交易が増えて、アジアへの関心が高まり、メキシコ、コロンビア、ブラジル、アルゼンチンなどを中心に交流事例が増えてきている代表的な地域の一つだ。公演会場より、主にフェスティバルが招聘者である場合が多く、経済成長で適正な公演費を支給しているが、距離上、航空運賃の負担が大きい。したがって、中南米内のツアーや北米との連携ツアーを模索する場合が多い。また、政治的状況に応じてフェスティバルの行政と運営の方向が変更されて、不確実性が大きいことが、中長期的な進出を準備する上での障害という意見だった。
(ここまで)

日本で海外公演を行ってる団体も多いが、オセアニア との交流は日本よりも韓国のほうがずっと盛んな気がする。
このマップ作成目的にもある「効果的、合理的に進出戦略を立て、試行錯誤を最小化する」ことは日本の舞台芸術の制作にも今必要なことだと思う。

《参考リンク》
まてぃっこブログ 「KAMS: 2013年センターステージ・コリア公募」(2012/09/26)